平成30年度~令和4年度 文部科学省科学研究費補助金国際共同研究加速基金
代議制民主主義のガバナンスの国際比較研究
自治体ガバナンス研究会
研究目的
本研究は、代議制民主主義におけるガバナンスについて日本と米国、韓国の三ヶ国比較を行うことを通して国際共同研究を推進することを目的とする。
研究方法
日本と米国、韓国の三ヶ国共に政府債務のGDP比率に示される財政状況が良いとは言えず、特に、自治体の中には厳しい状況に置かれているところが少なくない。そうした状況の中で、市民がどのような要因で政治参加や選挙における選択を行っているのかをデータに基づいて分析する。国際比較、特に日本・米国・韓国の三ヶ国を比較することにより、上記の分析結果が 政治制度とどのような関連をもつのかについても明らかにする。一つは、日本と米国・韓国 の比較による議院内閣制(日本)と大統領制(米国・韓国)との政治制度比較であり、もう一つは、日本・韓国と米国との比較による垂直的財政調整制度である地方交付税制度がある (日本・韓国)かない(米国)かという政治制度比較である。なお、研究代表者がこれまで培ってきたFAUIプロジェクトやGSPAにおける米国や韓国の研究者とのネットワークに日本の若手研究者を組み入れ、彼らが共同研究を通して国際共同研究に参加することを支援する。
さらに本研究では、自治体レベルの分析を行う。なお、日米韓三ヶ国共に自治 体レベルでは「首長と議会議員はともに直接選挙で選ぶことで相互の牽制と均衡により首長 と議会が緊張関係を保つ」二元代表制を採用しているが、現実には首長の権限が強く議会が 支持者の意向を首長に取り次ぐ役割に従事する自治体が少なくない。こうした状況の中で有 権者の政治意識が変化し、政治党支持をもたない無党派層が半数近くに達したり従来型の選 挙運動の効果が薄れて投票率が低下する一方、選挙を通さない条例制定請求や市民活動が増加している。こうした政治文化の変化(New Political Culture:以下、NPC)に着目する。そして、従来の政治的対立軸とは異なる新しい軸を設定し、両者の軸を組み合わせることで自治体の首長を次の4つのタイプに分類する。A:伝統的保守主義(社会的保守&財政的保守)、 B:伝統的リベラリズム(社会的リベラリズム&財政的リベラリズム)、C:NPC(社会的リベラリズム&財政的保守)、D:クライエンタリズム(社会的保守&財政的リベラリズム)。その上で、各自治体における社会経済的地域特性がどのようなタイプの首長の選出に繋がり、それがどのような政策アウトプットをもたらすのかを実証的に解明する。具体的に は、(1)NPC的な社会経済特性を持つ(若い世代が多く、専門職に従事している割合が高 い)自治体ほど、NPC的な市長(若く、市民参加に積極的で、政党から距離を置いている市 長)が輩出されるのかどうか、(2)NPC的な市長がいる自治体(若く、市民参加に積極的 で、推薦を受けていない市長)ほど、NPC的な政策(積極的な市民参加手法)が採用されるのかどうか、(3)財政的に余裕のある自治体ほど、積極的な市民参加手法が採用されるの かどうか、を明らかにする。本研究では、このために日米韓三ヶ国における各自治体(日本の市、米国の人口2万人以 上の市、韓国の特別市・広域市・市)の首長、議会議長、財政課長、総務課長の四者に対する共通した設問による意識調査を行い、各自治体の地域特性に関する社会経済的データと融 合して実証的な分析を行う。特に、①情報公開、②住民投票、③情報公開、④行政改革、⑤ 高齢者福祉の5点について、上記四者がどのようなタイプに属するのかと政策アウトプットの関連を実証的に分析する。さらに、政策アウトプットが市民による政策アウトカムにどの ように繋がっているのかを明らかにする。市民意識については前述の国レベルで用いた調査における自治体に関する設問回答データを用いる。
米国及び韓国の研究拠点と上記の国際比較による分析を行うことを通して、本研究は、次の点で政治学に対する貢献を行う。現在の政治学は研究者による業績競争の激化に伴い、次第に限定された分析対象についてのみ研究し、異なる分析対象を扱 う研究同士の関連が希薄化する傾向が否めない。例えば、政治学の中の政治過程論に限ってみても、投票行動は投票行動、議会研究は議会研究というように、個々の分析対象毎に別々に研究が行われがちであり、有権者の投票行動や選挙公約と議会での政治家の活動がどのようにリンクしているのかは明らかにされないままである。まして、政治過程論と比較政治学、 地方政治の研究者の間における相互連関を見出すことには一定のハードルがあることは否めない。本来、それらは相互補完的役割を担う分業化のはずが、各個別研究グループ内における研究者同士の競争に視点が行きがちになっている。そこで、本研究では、米国及び韓国の研究者と共に、これまで別々に研究されてきた政治意識、地方政治、自治体財政を融合して分析し、日米韓の国及び自治体における代議制民主主義の比較研究を行うものである。